(関連リンク、拡大画像を参照できるオリジナルの記事はこちらです)
2012年9月に「iPhone 5」が発売されて以来、KDDIとソフトバンクモバイルがLTEサービスの整備で火花を散らしていますが、たとえどれだけ整備が進んでも、本当の意味でiPhone 5のLTEがつながりやすくなることはない……という話をお届けします。
これは仮に「NTTドコモ版iPhone 5」が実現しても同じことで、「LTEのつながりやすさ」という観点で述べるのであれば、iPhone 5はXperiaやGalaxyなどの他社製スマートフォンに遠くおよびません。詳細は以下から。
◆日本国内のLTEの現状は?
まずは携帯各社が提供しているLTEサービスを電波の周波数帯で解説するとこんな感じ。800MHz帯は電波が障害物を回り込んで届き、建物の中にも浸透しやすい「プラチナバンド」で、基本的に800MHz帯→1.5GHz帯→1.7GHz帯→2.1GHz帯の順番で建物の中などに弱く、つながりにくくなっていきます。
NTTドコモ:800MHz、1.5GHz、2.1GHz
KDDI:800MHz、1.5GHz、2.1GHz
ソフトバンクモバイル:2.1GHz
イー・モバイル:1.7GHz
なお、周波数帯域とつながりやすさについてはこちらの記事を合わせて読むと分かりやすいかもしれません。
◆iPhone 5をめぐるLTEエリアカバー騒動、対応周波数帯の少なさが原因
そして先日メディアを騒がせたのが、KDDI版iPhone 5のLTEカバー率。これはAndroidスマートフォンとiPhone 5でカバー率が異なるにもかかわらず、Androidの実人口カバー率96%(2013年3月末時点)がiPhone 5にも適用されると同社のカタログや公式ページの一部に誤記してしまったという内容でした。
すでに各種報道で広く語られていることではありますが、同じ「au 4G LTE」対応端末であるにもかかわらずカバー率が異なってしまったのは、Androidが800MHzや1.5GHz、2.1GHz(2013年夏モデルから)のLTEに対応する一方で、iPhone 5が日本国内では1.7GHzと2.1GHzのLTEしかサポートしていないことが原因。つまりiPhone 5はKDDIが展開するLTEサービスの一部(2.1GHz)しか利用できないわけです。
◆どうして1.7GHz、2.1GHzのみの対応なのか
iPhone 5が日本国内で1.7GHzと2.1GHzのLTEのみのサポートとなった理由ですが、これはAppleが北米市場向けの「A1428」1機種、世界市場向けの「A1429」2機種(W-CDMAモデルとCDMA2000モデル)の合計3機種のみで世界市場をカバーしていることによるもの。
世界各国の通信会社はさまざまな周波数帯でLTEサービスを展開していますが、AppleはiPhone 5を各国のLTEにきめ細かく対応させるローカライズを行わず、世界的に利用されている周波数帯(グローバルバンド)のみの対応としたわけです。
それぞれの通信事情に合わせたモデルを個別に開発して生産ラインを立ち上げるよりもコストが少なくて済むほか、世界をまたいで柔軟に供給できるなど、Appleにとってメリットがあるこのやり方。しかし「LTEの快適さが損なわれる」という形でそのツケを払わされるのはユーザーです。
「グローバル展開だから仕方が無い」という声もあると思われますが、「Galaxy S4」「Xperia Z」といったグローバルモデルの国内版がプラチナバンドを含む複数の帯域のLTEをサポートできていることを考えると、「AppleはSamsungやソニーすらやっていることをしていない」と感じてしまうのも無理からぬ話ではないでしょうか。
◆iPhone 5に限定した勝負を仕掛けるソフトバンク
そして日本国内でiPhoneを取り扱うソフトバンクモバイルは以下のスライドのように、事あるごとに対象端末をiPhone 5に限定した上で自社のLTEの優位性を主張しています。
しかしながらこれは前述の通り、iPhone 5が対応する周波数帯が少ないことを利用した、限定された条件下でソフトバンクモバイルとイー・モバイルのLTEを足したものとKDDIのLTEの一部を比較したもの。決してLTE全体の比較ではありません。
◆iPhone 5のLTEが本当の意味でつながりやすくなることはこれからも無い
また、両社ともLTEの整備を進めていますが、残念ながらこれから先も本当の意味でiPhone 5のLTEがつながりやすくなることは無いと考えられます。
これは3G時代に2.1GHzの基地局を18万局展開してもつながりやすさが大きく改善せず、プラチナバンド(900MHz帯)導入を機に劇的につながりやすくなったとアピールするようになったソフトバンクが証明したもので、結局2.1GHzのLTEをどれだけ整備しても、建物の奥にまで浸透できるプラチナバンドのLTEには敵わないわけです。
また、携帯各社では「実人口カバー率」をLTE比較に用いていますが、障害物に強いプラチナバンドの特性を考えれば、仮に同じ実人口カバー率だったとしても、2.1GHzとプラチナバンドでは建物の中など、数字に表れづらい部分でのつながりやすさが異なってくるのではないでしょうか。
◆iPhone 5S以降はプラチナバンド対応が焦点に
このようにLTEスマートフォンとして考えた場合、最も大事なつながりやすさの面でAndroidに引けを取るなど、あまり使い勝手が良いとは言いづらいiPhone 5。
当然次期モデル「iPhone 5S」についてはプラチナバンドのLTEに対応するかどうかが焦点となるわけですが、対応しないのであればLTEを快適に利用したいユーザーはiPhone以外を選んだ方がいいという状況が今後も続くことになります。
また、もしプラチナバンドに対応した場合、下り最大75Mbps・実人口カバー率96%の「つながりやすいLTE」をいち早く構築したKDDIが一気に優位に立つことになるなど、形勢が逆転する可能性もあるため、今後も目が離せません。
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