大手携帯各社から回線を借りて通信サービスを提供する「MVNO(仮想移動体通信事業者)」を推進したところ、700以上の事業者が参入して一気に過当競争に陥り、かえって大手と競争できる事業者が育たない環境を作ってしまった総務省。
そんな状況を打開すべく、またもや謎規制を打ち出すことになりました。詳細は以下から。
◆格安スマホの速度を遅くするなどの差別を禁止?
日本経済新聞社の報道によると、総務省は大手携帯電話会社が回線を提供する格安スマホの通信速度を遅くするなどの「差別」を禁止するそうです。
これは電気通信事業法施行規則を改正し、大手携帯会社に対して通信伝送速度などで不当な差別的扱いを行わないことを約款に記載するよう求めるというもの。規則は早ければ10月に改正され、各社はその後3ヶ月以内に対応する必要があるとされています。
なお、総務省がこのような動きを見せる背景には、「大手の系列ブランド(いわゆるサブブランド)の通信速度が格安業者のスマホよりも高速」という指摘があるとのこと。
総務省は差別禁止を明確に定めることで疑念や不信を払拭する必要があると判断したとされています。
◆サブブランドを批判する大手MVNO各社
ちなみにここで確認しておきたいのが、昨年12月25日から総務省が開催している「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」の資料。IIJ、楽天、「mineo」を提供するケイ・オプティコムがサブブランドに対して意見を寄せています。
・IIJ
まずはIIJ。サブブランドを用いた既存の利用者の囲い込みを問題視しています。
MNP転出を希望するユーザーに対し、自社のサブブランドを薦めることなども問題視しています。
・楽天
続いては1桁足りない投資額で携帯電話事業へ参入する楽天。「接続料金を勘案してもサブブランドの通信速度はMVNOでは提供不可能な水準」としています。
メインブランドとの併設店をいち早く展開している点も問題視。
・ケイ・オプティコム
そして「eo光」でおなじみ、関西電力傘下のケイ・オプティコム。やはり通信速度の差を訴え、「公正競争確保のための対応」を総務省に求めています。
◆ソフトバンク、UQコミュニケーションズが反論
・ソフトバンク
これらの批判に対し、ついに反論を始めたのがソフトバンク。まずワイモバイルによる料金低廉化が総務省におけるタスクフォースでも評価を得てきたことを指摘した上で、ワイモバイルは単なる事業・ブランディング戦略の一部でしかないとしています。
海外でも大手キャリアがサブブランドを提供している事例を挙げた上で……
ワイモバイルは低価格端末を中心に提供し、サポートダイヤル有料化やショップ展開の最適化によって低料金を実現しているとしています。
ネットワークについても、差別的な扱いを行っていないとしています。
・UQコミュニケーションズ
続いてはUQ mobileを提供するUQコミュニケーションズ。WiMAXサービス用の2.5GHz帯を割り当てられる際に課された指針により、同社はKDDI陣営ではあるものの、あくまで独立した企業です。
KDDIのMVNO事業者である一方、WiMAX回線を提供するMNOでもある同社。
IIJ、楽天、ケイ・オプティコムよりも少ないUQ mobileのシェア。UQ mobileに限って言えば、よってたかってMVNO上位陣にサブブランド批判で殴られている側です。
WiMAXサービスで快適な通信速度を追及してきた以上、スマホでも快適な通信速度を出すことが同社のポリシー。ショップ展開などのコストも先行投資であるとしています。
◆自社の経営資源をサービス差別化の資源に充てるのは不当?
確かにMVNO各社より不当に安く回線が卸されているなどの事情があるのであれば問題。しかし先述したように、UQコミュニケーションズはKDDIから携帯電話回線を借りる一方で、WiMAX 2+回線をKDDIに貸す立場です。
MVNO各社との差別化のために、UQがKDDIから得たWiMAX 2+回線使用料収入の一部を、KDDIから借りる帯域幅の支払いに充てて高速化していると考えれば、特に問題があるようには思えません。
ソフトバンクに吸収されたワイモバイルについても、前身となったイー・モバイルおよびウィルコムは1.8GHz帯や2.5GHz帯を保持していた、自社で回線を持っていた事業者であることを考えると、KDDIやUQコミュニケーションズの関係とほぼ同じです。
このような「自社が手がける格安スマホ事業以外の経営資源を用いて、格安スマホサービスの差別化を図る」ことが許されないのであれば、自社のポイントやサービス、店舗網などを組み合わせた差別化なども当然許されないはずです。
◆過当競争で「格安」以外の軸で戦えないのが問題ではないか
「大手各社から買った帯域にユーザーを詰め込み、安く使えるようにする」という仕組みの性質上、ユーザー1人あたりの単価が低く、サービスの差別化が難しい格安スマホ。
市場規模が小さいにもかかわらず、700以上の事業者が参入したことで過当競争が発生し、各社が料金を引き下げすぎた結果、MVNO事業を維持し続けることさえ困難な事業者すら相当数いるのではないかとみられます。
そのような環境では各々の事業者が思い描いていたであろう「自社が持つ強みと通信サービスを組み合わせる」といったビジネスモデルを構築する余力は当然なく、ただただ消耗戦が繰り広げられるのみです。
MVNO分野で自らが招いた「官製不況」のツケを大手各社およびサブブランドになすり付けている感が強い総務省の施策。
どうしても手を入れるのであれば、自らの失策を認めた上でMVNOの統廃合などを進め、大手各社と戦える事業者を育てる方向に舵を切ったほうが、まだ現実的ではないでしょうか。