先日から話題となっている「競争が働いていないと言わざるを得ず、いまより料金を4割程度下げる余地はあるのではないか」と菅官房長官の発言。
Buzzap!では「4割」という数字がどれだけバカげているのかの検証をお届けした上で、携帯電話料金は諸外国と比べて決して高いとは言えないという記事をお届けしましたが、なんととんでもないところに値下げの根拠を求めていることが分かりました。詳細は以下から。
◆「楽天が現行の半額程度になる予定だから4割値下げできるはず」という理屈
産経新聞社の報道によると、菅官房長官は27日の会見で「携帯電話料金を4割程度値下げする余地がある」とした根拠について「他の主要国より高水準」「新たに参入する楽天が既存事象者の半額程度の料金を計画」という2点を挙げたそうです。
携帯料金4割下げ「競争行えば下げられる」 菅長官 – 産経ニュース
しかし実際のところ、スマホ本体代と通信量を合わせた月額料金がほかの先進国と比較して特に高いわけではないことは、先日お伝えした通り。
残る楽天の料金プランについても誤解が多く、そもそも楽天の携帯電話事業というのは一体どういった性質のものかを以下で解説します。
◆楽天の携帯電話サービスは枯れた技術を使った割り切ったもの
まず前提として理解しておいてもらいたいのが、「楽天の携帯電話事業はかなり割り切ったサービスになる」という点。
・5Gでなく4Gでのサービス展開
ドコモ、au、ソフトバンクが5Gの商用化にこぎつけようとする中、楽天は4G(LTE)でサービスを展開。技術開発がし尽くされ、基地局インフラの整備に必要なコストが大きく下がった、言うなれば「枯れた技術」を使うわけです。
ちなみに2019年のサービス開始時から2025年までにかけて楽天が投資する「6000億円」は、NTTドコモが1年間に費やす設備投資の額と同じ。ゼロからネットワークを構築するにもかかわらず、年間の投資額は2割にすら届きません。
・エリアも限られる
さらに楽天が割り当てられた周波数は1.7GHz帯のみ。プラチナバンドがないため、建物の中などで快適に使えません。
しかも1.7GHz帯を利用できるようになる時期は地域によって異なり、単独で全国カバーできるようになるのは早くとも2022年ごろです。
総務省が求めるサービス開始8年後の人口カバー率も80%です。
極めつけが地下の問題。地下は空間に余裕がなく、携帯3社が設立した「公益社団法人 移動通信基盤整備協会(旧:社団法人 道路トンネル情報通信基盤整備協会)」により、とてもとても長い時間をかけて整備されてきた経緯があります。
かつてのイー・モバイルも地下鉄駅などをカバーするのにそれなりの時間を要していたことを考えると、「サービスインにこぎつけたものの、東急田園都市線で楽天本社がある二子玉川から渋谷(すべて地下区間)に向かおうとしたらいきなり圏外」となる可能性も十分考えられます。
・速度も限られる
さらに楽天が割り当てられた周波数は1.7GHz帯の20MHz幅のみ。大手3社のような1Gbps近いサービスを提供するのはまず無理な上、ほかの周波数帯を組み合わせて通信を安定・高速化させるキャリアアグリゲーションも利用できません。
◆楽天も大手各社も総崩れ、日本がモバイル先進国から陥落する未来
投資額から考えても大手3社のような規模感でのサービス提供はできず、「サービス開始から数年後、東名阪などの人口密集地であればそれなりに使える程度」になるとみられる楽天の携帯電話サービス。
誤解を恐れずに言うならば、かつてのイー・モバイルやウィルコム、ツーカーのような「通信方式やエリア、速度が限られた非常に割り切ったもの」となるわけです。
割り切ったサービスでいいならば、既存事業者の半額程度になるのは当たり前のこと。しかしこれから1Gbpsを優に超える5Gネットワーク整備に向けて莫大な投資を迫られる大手各社はそうはいきません。
世界でも有数の高速ネットワークが広範かつ高密度で整備され、最新の通信規格実用化に向けた技術開発に大手各社が取り組むなど、間違いなく「モバイル先進国」の日本。
それでも強行に「4割」を国策でゴリ押すのであれば、まず5Gのネットワーク整備が進まなくなるのは間違いないほか、楽天の価格競争力も失われ、総崩れになる未来しか見えません。
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